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​夏涼しく、冬暖かい不動産を知る、探す、作る
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耐久性、改修、可変性。次世代の断熱構造の課題


今回は、フィンランドと日本の最新の断熱技術レポートです。フィンランドではCLTを使った中高層木造建築が次々に建設される一方、伝統工法であるログ工法にも絶大な信頼が根付いています。その鍵は、耐久性にあるようです。では、日本の断熱工法の耐久性、可変性はどうなのでしょうか?

少し専門的ですが、森太郎北欧特派員による読み応えのあるレポートです!


5/30-6/6までフィンランドを訪問してきました.主な仕事は北海道大学とオウル応用科学大学の間の部局間協定を結ぶことと,これから参画する共同研究(Zero Arctic Project)の下打ち合わせでしたが,折角の機会なので,Poriで行われるAsuntomessut(Housing fair)や世界遺産のRauma旧市街の見学をしてきました。その後のオウル大学(オウル応用科学大とは別の大学です)の訪問も含めて感じたことを書きたいと思います。


ヨーロッパは木造ブーム。牽引するのはCLT

(上)CLTが利用された住宅 PoriHousing fairにて


 現在,フィンランドだけでなく,ヨーロッパ全域で木造建築がブームとなっています.元々,木材はカーボンニュートラルな材料ですが,それに加えCLT等の耐久性の高い建材や工法が開発されることで,中高層の建物にも使用できることになり,多くの建物が木造系で建てられるようになってきています。

  • CLT(Cross Laminated Timber)=ひき板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。中高層建築にも耐える強度を持つ。工場でパネル化するため、現場での施工期間が短いというメリットもある。構造体、断熱、外装仕上、内装仕上を兼用することができる。

実際,Poriで行われていたHousing fair(#PoriHousingFair #porinasuntomessut #asuntomessut2018)の住宅は老人ホームやタウンハウスも含めてほとんどすべてが木造で作られていましたし,いくつかの住宅では部分的にCLTが使われていました。

(上)Pori Housing fair 全景


伝統工法ログも絶大な信頼を維持。理由は、過去の断熱気密工法の失敗

 一方,相変わらずログ〈丸太組工法)も多く使用されています。ログで作られる場合には,フィンランドのような寒冷地でも断熱材が使われないことが多いです.そのあたりの事情をすこし説明します。

グラスウールやロックウールといった信頼性の高い断熱材が建物に用いられるようになったのはそれほど古い話ではありません(60年くらいではないでしょうか)。

それ以前は,北欧においても,中空層をもつ組積造(壁厚はかなり厚いです)が用いられていました。

その後,徐々に断熱材が使われるようになるのですが(北海道でも同時期の公営住宅に炭がらやおが屑が用いられていたようです),日本と同様に断熱・気密工法の研究不足から,ダンプネス(結露等による湿害の総称のことです)に伴うアレルギー疾患の増加という社会問題を引き起こしています。この問題は内部結露が原因と考えられており,この問題への対応には大きな投資が行われています。


下の写真は私が10年前に滞在していたVTTのメインオフィス(フィンランドの産総研)ですが,現在全面改修中です。5年ほど前から別のオフィスに引っ越しています。

また,今回は国立保健科学院の林先生,宮城教育大学の本間先生も一緒でしたがフィンランドで最も重要視されているのはダンプネスとおっしゃっておりました。(現在,お二人はフィンランドの高齢者施設の室内空気環境を調査されています。)

フィンランドでは,現在,住宅等が流通する際にサーモカメラによる表面温度の検査が必須になっています。ヒートブリッジと漏気のチェックのためですが,大きな目的はダンプネスの防止になっています.(日本建築学会北海道支部で釧路高専の桑原先生が発表予定)


(上)改修中のVTT


(上)サーモカメラによる低温箇所,漏気箇所の検査(Timo Kauppinen氏提供)


この問題への反省からフィンランドでも防湿工法を伴う断熱工法を信頼性が低いとして嫌う人たちが多くいます。

特に,フィンランドでは住宅建設に居住者が参画している場合が多く(建設資金の節約と趣味の両面があります),特にそのような場合にはログが好まれます。また,ログで住宅が作られる場合,水回り以外,防湿層は設けられないことが多いです。この場合,RCの外断熱工法のように水蒸気の壁体内への侵入は厚い躯体がくい止めることになります(もちろん,木材は吸放湿性を持っているので,RCよりは表面結露が生じずらい特徴も持っています)。RCの場合には,熱伝導率が高いため,十分な厚さの断熱材を施工しない場合,室内側の表面温度が下がり表面結露の危険がありますが,ログの場合は十分な断面のログ部材を用い,また,室内の温度を維持することで表面結露を回避できます。下記,一枚目の写真はオウル市の学校です。世界最大級のログ建築物と言われています。


(上)世界最大級のログ建築物(学校,オウル市,撮影:大村裕子氏)


(上)ログの住宅を建設中の大工さんではなく住民の男性(撮影:大村裕子氏)


また,もう一枚の写真はDIYで(すべてではないと思いますが)ログの住宅を建てている男性です。

 ログはフィンランドの伝統工法です(フィンランドだけではないですが)。私たちが在来工法に大きな信頼性を寄せているのと同様に,北ヨーロッパの方たちはログに大きな信頼を寄せています。写真はフィンランド中部のRaumaの旧市街です。Raumaはフィンランド中世に建設された木造市街地で1682年の大火以後,その形を大きく変えずに現在まで使用され続けています。1900年代初期には街路を広げる計画に伴って,建物を更新する計画もあったようですが,ログがそれほど傷んでいなかったため,現在まで残り,1991年に世界遺産として登録されています。こうした実例が多くあることからもフィンランドの人達がログに対して大きな信頼を寄せるエビデンスになっています。


(上)Raumaの旧市街


ログ、CLTなど木造組積の断熱性能は、工業断熱材の1/3から1/5 厚みで性能を確保。

では,ログの省エネルギー性はどうでしょうか?もちろん,断熱材に比べれば大きく劣ります。木材は単位厚さあたりの断熱性能は,工業製品の断熱材の1/3から1/5程度ですので同等の断熱性能を得ようとすると厚みで稼いでいく必要があります。そのため,集成材で作られた厚みのあるログ部材が使われる傾向があります。一見,無駄に思えますが,間伐材にあたるような木材も用いてしまうことで,炭素固定を行ってカーボンニュートラルに寄与する考え方もあります。


結露問題を工法の洗練で切り抜けた日本。 しかし、施工不良の場合は。

翻って,日本の断熱工法を考えますと,現在の日本の断熱工法は1980年代に北海道の研究者が輸入し,洗練させたものだと思います(特に室蘭工大の鎌田先生,北海道大学の荒谷先生,長谷川先生の力が大きかったように思います.)。

下図は日本建築学会北海道支部が数年前にまとめた,北海道住宅の開発史年表です。

1980年頃から開発のテーマが熱環境の改善になり,性能や北方圏への志向が強まるとともに,木造の防寒住宅が登場し,後に北方型住宅となっていくことがわかります。

(このあたりは,そのうち丸田さんがキーマンにインタビューを行う予定です).


(上)日本建築学会北海道支部北方系住宅委員会


ここ5年程,北海道R住宅のみなさんと仕事をするようになり,気密が確保されている木造住宅の信頼性が非常に高いことがよくわかりました。写真は築約30年の北方型住宅の断熱材です。防湿層がしっかりと施工されていれば,断熱材は昨日いれたものと見た目はあまり変わりません.


(上)左下が断熱材(グラスウール),次の写真と比べると非常に健全であることがわかる


一方,防湿層の有無が断熱材の状態に与えた影響です。防湿層に不備があった場合には下のような状態になってしまいます。


(上)防湿層が施工されていた部分とされていなかった部分の差

(左側が防湿層有,右側がなし)(写真提供:山本亜耕氏)


現代の断熱工法の不安

このような断熱材の状態をみると,現在の断熱工法にすこし不安もでてきます。いくつか列挙すると,以下の通りです。

  1. 現在,中古住宅改修時に議論されているゾーン断熱なる手法は本当に成立するのだろうか?(省エネの観点からのみ議論がされ,躯体の耐久性が置き去りにされていないだろうか)。

  2. まずは窓からのような中古住宅の改修手法は居住者をだましていることにならないのだろうか?(窓を売るための議論になっていないだろうか?室内環境や省エネ性が改善されなかった際に,無償でもとに戻せるような仕組みが必要?)

  3. 現在の断熱工法は,将来の間取り変更時にどのように直していくのだろうか?


耐久性、可変性向上に高断熱高気密住宅のさらなる進化の可能性が。

特に,3なのですが,やはり住宅はいろいろ変化しながら長く使われていくもののように思います。

フィンランドのログは断熱性能は十分ではないものの,寒冷地で200年使い続けることのできる強さを持っています。さらに最近も継続的に研究が行われ,より大規模なもの,より室内環境・エネルギー面でよいものが作られつつあります。

では,日本の木造断熱工法はどうなのでしょうか。やはり,増減築,改築するときに,防湿性や気密性を確保し,耐久性を維持するノウハウは足りないように思えます。

但し,断熱気密工法は、在来工法を現代のライフスタイルに合わせて一歩進めたという点で大きな功績であることには変わりありません。


「私たちのライフスタイルはこれだから在来工法はこれでいいのだ」では進歩が望めません。断熱第一世代の住宅が改修の時期を迎え,劣化の状況が見えてきています。

ここで,断熱工法の全般的な問題点と施工上の問題点を切り分けて議論することで,日本の木造断熱工法は大きく進歩するように思います。

(この工法はこれ以上進歩が望めないと仰っている建築家の方もいらっしゃいますがhttps://www.facebook.com/earth.voice.design/


断熱工法の圧倒的な室内環境の良さを生かしながら,次の世代にどのように残していけばよいのか?また,使われながら形が変わっていくことを許容するような断熱工法について考える時期にきているのかなと感じた出張でした。

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