​夏涼しく、冬暖かい不動産を知る、探す、作る
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電力改革で改修費用を捻出した断熱不動産

今回は、断熱不動産の実現方法、特に避けて通れないお金の問題についてより詳しく迫ります。

札幌の都心部に立地するあるマンションでは、築7年目に管理組合直轄で高圧一括受電方式への切り替えを実施しました。削減した電気料金の差額を修繕積立金に繰入ることで修繕積立金を約50%積み増し。それを原資に築15年目の第一回目の大規模修繕において外断熱改修を実現しました。

街にひっそりと佇む断熱不動産を発掘する「発掘!断熱不動産」第三回目です。

(上)管理組合が設置した変電設備


人気エリアの素敵なマンション

まずは物件紹介です。札幌市中央区のとある人気エリア。地下鉄にも徒歩5分以内という利便性も高い立地のマンション。SRC造の14階で2001年に竣工しました。



2階以上の外装は、外断熱改修によって、タイル張りから塗り壁と金属の外装に変わっています。一階エントランスのレンガ風タイルは残され、外断熱部分もうまく素材の切り分けを使っているため、周辺のタイル張りのマンションに全く引けを取らない高級感です。



お話を伺ったのは、住民の一人で、高圧一括受電方式への切り替え時と外断熱改修を含めた大規模修繕時に2回、マンションの管理組合の理事長を務めた羽山広文さん。

実はこの羽山さん、日本の断熱技術研究をリードしてきた北海道大学工学部建築環境学研究室の教授。さらに研究職となる前は、建物維持・修繕に長けた大手企業に勤務しており、建物の設備、維持管理の実務にも詳しい方だったのです。

お宅におじゃまして驚いたのは、南面の大きな窓からのパノラマビュー。南側が戸建て住宅地となっているため、200万都市の中心部でありながら街と山が一望できます。札幌の人なら、「この景色が見えるということは、あの人気のエリア!」とお分かりになると思います。



高圧一括受電とは?



一般の戸建て住宅や小規模マンションは100Vや200Vという低圧の電気を戸別に電力会社から購入しています。

一方、事業用建物や大規模マンションでは、6000Vの高圧で受電し、自前の変電設備で低圧に変換して利用します。高圧一括受電には高圧受電設備と変電設備が必要なものの、ケースによっては、低圧受電時に比べ、全体の電気料金が約半額になる可能性もあるのです。

電気料金削減を狙い、低圧から高圧受電方式切り替えを行うマンションは近年増えています。しかし多くは、民間事業者が提供するサービスを利用したもの。この場合、設備などは事業者が負担する一方、電気料金削減率は抑えられます。


マンション管理組合が電力会社と直接契約

羽山さんが取り組んだのは、事業者を通さず、マンション管理組合が自ら設備を整備し電力会社と高圧一括受電契約を結ぶこと。

受変電設備、各住戸への小メーターの設置、検針と料金徴収などをマンション管理組合で行わなければなりませんが、中間業者を介さない分、投資回収を含めても電気料金の削減率が4割は硬いと試算したのです。

さらに、住民が支払う電気料金削減率は、従来の電力会社の電気料金マイナス2%と決めました。残りの40%近くの削減分は、直接住民に還元するのではなく、マンションの修繕積立金として積み立てることにしたのです。

電気料金の修繕積立金の繰入れることにより、マンションの修繕積立金は以前の1.5倍のペースで積み上がるようになりました。

羽山さんのマンションは、14階26戸の小規模なペンシル型マンション。小規模なマンションは、一戸あたりの外壁の面積や共用部管理の負担が大きくなり、修繕・管理費が割高になる傾向になります。こういった小規模マンションでは、必要な修繕積立金を積み立てるのに苦労するところが多いのだそう。


電力改革と外断熱改修。構想は新築時から。築5年目には着手

しかし、マンションを新築で購入するときから、外断熱改修の必要性を感じ、その実現方法として管理組合直轄による高圧一括受電方式への切り替え(電力改革)のアイディアを温めていた羽山さん。築5年目に一回目の理事長に選任されると、早くも、高圧一括受電切り替えに着手しました。

しかし、住民の中には、「世の中そんなにうまい話があるわけがない」「そんなに安くなるなら他でもやっているはずなのに聞いたことがない」と反対した人もいたとか。

羽山さんは追加の負担のない資金計画をたて住民全戸の合意を取り付けました。そして2007年無事高圧一括受電に切り替え。結果、修繕積立金を以前の約1.5倍のスピードで積み立てることが可能になりました。

受変電設備の管理や各住戸の子メーターの管理は、マンションが行っています。管理組合独自の電気供給規定もつくりました。電気使用量の検針は管理員が毎月行います。検針結果を入力すると、各住戸の電力使用量、電力料金が集計できるエクセルシートを活用し、毎月の管理費、修繕積立金などと一緒に集金しています。


築15年目、一回目の大規模修繕で外断熱改修を実現

羽山さんが2回目の理事長になったのは、築13年目の2014年、マンションの大規模修繕を計画する時期でした。電力改革以降、修繕積立金は順調に積み上がっていました。次は、この積立金を原資に、暖房費の削減、建物の快適性向上と長寿命化を実現する外断熱改修に取り掛かります。

しかし、想定外のことが一つありました。東日本大震災、東京オリンピック開催決定などの影響で、工事費が想定より高騰していたのです。

そこで、足りない費用は、管理組合名義で5年の借り入れを行いました。返済は、従来の修繕積立金から行います。積立金の月額は変えず、わずか5年で返済できるのも、電気料金の差益を修繕積立金に繰り入れを実施していたおかげです。2016年、外壁に厚さ75mmの外断熱を付加した改修が完了しました。

暖房費の削減と、住戸の中の温度ムラの解消

外断熱改修後、変化は、どのようなものだったのでしょうか。

まず、羽山さんの住戸の場合、暖房用の灯油消費量は改修前後で、約17%削減しました。

その年の象条件や各住戸のライフスタイルの差もありますが、26戸全体では、約7%の灯油消費量削減となりました。

一方、10戸の室温調査によれば、室内の温度は、平均で2.2度上昇。一日の室温の変動幅が小さくなったこと、寝室とリビングといった別の部屋の間の温度差が小さくなったという変化も見られたそう。住戸内の急激な温度差は、ヒートショックといって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因になるといわれています。外断熱によって建物の温度は体に優しい状態に変化したようです。


上昇を続ける建設工事費。修繕時には将来の修繕負担軽減対策を。

東日本大震災以降、高騰しているという建設工事費。東京オリンピック以降も、人件費の高騰、高齢化、人手不足などにより、日本の建設工事費は高止まりすると予想されています。時間が経てば経つほど工事費があがるのですから、マンションの大規模修繕計画には、今後の修繕費用を抑えるという視点が年々重要になってくると予想されます。

羽山さんのマンションでは、南面のバルコニー手すり、柱以外、ほとんどの外壁が外断熱の塗り壁仕上げ、金属板仕上げに変更されました。コンクリートは外側から断熱材で守られることによって、劣化が抑えられます。外装の修繕は、通常約12~15年ごとに行いますが、外断熱改修をした面は、25~30年は修繕なしで維持できると想定しています。10年に一度、法律で打診検査が義務付けられたタイル壁が大幅に減ったのも大きな負担減です。

すご技マンション運営、普通の人でもできますか?

羽山さんが主導したすご技マンション運営。専門知識のない一般の住まい手にも実現可能なのでしょうか。

「誰だってできますよ。方法は難しくないです。」と羽山さんは言います。

それよりも大変と感じたのは、住民の合意を取ることだったそうです。

高圧受電方式への切り替えでも外断熱改修のときも、「変化がなんとなく怖い」「このままでいいのでは」という意見でなかなか合意が得られなかったそうです。

外断熱改修の採択が難航したときには困り果てた羽山さんから

「この提案を採択いただけないなら、他の人に理事長をゆずります。」

という発言が飛び出す場面もあったとか。


分譲マンションは、運命共同体のようなもの。適切な管理を怠たれば、住民共同の資産であるマンション全体の価値が落ち、いずれは負動産(住民の負担・負債となる不動産)に転落してしまうかも知れません。

電力改革、外断熱改修、それぞれの手法よりも、オーナーたちの意識と行動力が、何よりも建物の価値に関わるのではないか。そう感じさせれました。

毎度のことですが、建物よりも、建物の価値を守ろうとする住み手に惹かれていってしまう発掘断熱不動産です。次回もお楽しみに。

(取材・文章 丸田絢子)

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