今年も断熱不動産のありがたさが感じられる季節がやってきました。そう。夏です。
今回は、断熱不動産が夏も快適な理由と、快適に過ごすコツについて、ご紹介したいと思います。
ステンレス魔法瓶とガラスボトルで考える断熱
最初に、断熱不動産が室温を維持する仕組みをわかりやすく説明してみます。
断熱不動産を断熱性能の高いステンレス魔法瓶に、断熱性能の低い不動産をガラスボトルにたとえてみます。
冬。温かい飲み物を、スレンレス魔法瓶と、ガラスボトルに入れ室内においておきます。
2時間後、中の飲み物の温度はどうでしょうか。
魔法瓶の中の飲み物は、温かく保たれていますが、ガラスボトルにいれた飲み物は冷めてしまいました。
次は夏。今後は、氷をいれた冷たい飲み物を、魔法瓶と、ガラスボトルに入れます。2時間後、魔法瓶の中の飲み物はまだ冷たく、喉を涼やかに潤してくれます。
一方、ガラスボトルの氷は溶け、飲み物は生ぬるくなってしまいました。
魔法瓶=断熱は、温かさも冷たさも保つ。
魔法瓶は、内部に真空の層をつくることで、断熱性能を高めた容器です。「断熱」は、温かさであれ、冷たさであれ、中のもの温度を保つ、という機能があるのです。
正確には、中の暑さ、冷たさが、外に逃げるスピードを遅れさせるというべきでしょうか。
魔法瓶の中に入れた氷、これをエアコンの冷風と考えてみてください。同じ量の冷風を供給した場合、断熱性能の高い建物と、断熱性能の低い建物、どちらが涼しく保たれるでしょうか。答えはもちろん、断熱性能の高い建物です。
逆に考えてみると、2つの建物を同じ室温に保とうとすれば、断熱性能の高い建物は、エアコンの電気代が少なく済み、断熱性能の低い建物は、より電気代がかかるということです。
断熱不動産は、窓のついた魔法瓶 窓も高断熱です
しかし、実際の建物と魔法瓶では違うところがあります。それは、窓があることです。
風景、光、風、空気など、窓は建物の中と外を視覚的、物理的につなぎ、生活を豊かにしてくれる要素です。
断熱不動産においては、窓も、断熱性能の高い製品が使われます。熱を通しにくいプラスチックや木でできた枠に、ガラスを2または3枚重ねてその間の空気層によって断熱性能を高めた断熱サッシ窓です。ガラスは透明ですし、開閉できるタイプも揃ってますので、使い勝手は一重のガラスとほとんど変わりません。下は、トリプル(3重)ガラスのテラスドア。
夏の日差しを遮る工夫
冬、窓は日差しを取り込み、建物の中に熱を取り入れてくれます。暖房の補助のような役割を果たすのです。
一方、室内を涼しく保ちたい夏においては、窓を通して日差しが入ることで、室内が熱くなりすぎてしまいます。そこで、夏は日差しが入らないようにする工夫が必要です。工夫といっても高度なものではありません。日本で古くから使われてきた、庇や簾で上手に直射日光を遮ればいいのです。
ポイントは、窓の外で日射を遮ることです。室内のカーテンでは、室内に熱が入ってきてしまうので、効果が落ちてしまいます。
上の写真は、以前「発掘断熱不動産」でご紹介した旧荒谷邸です。このスカスカの水平ルーバー、冬の低い日射は通して日差しを室内に取り込み、夏の高い日射は遮る優れものです。
これは断熱不動産でもある我が家の写真。7月後半から9月いっぱいまで、庇の先に簾を吊り下げています。
我が家はリビングの窓は南西向きです。庇は、真南向きだと効果が高いのですが、少し方位がずれると朝日や西日が差込みやすくなります。そういうときは、低い日射も遮れる簾やシェードが有効です。
簾は見た目も涼やかで、とても気に入っています。また、簾のいいところは、風が適度に抜けるところ。軽くて取り付けも簡単です。
最近では窓の外側に電動ブラインドを付け自在に日射をコントロールする建物も増えてきました。下は、「発掘!断熱不動産」の次回記事でご紹介する物件の電動ブラインドです。
植物を使ったグリーンカーテンも各地で取り組まれるようになりました。
昨年試したモロッコインゲンのグリーンカーテンです。美味しかったです。
その他に太陽の光を反射するガラスなどもありますが、光を反射する分、室内が暗くなるなど、デメリットもあるため、方位による使い分けや、窓面積の設計が重要になります。夏の日差しは強烈なので、良いガラスでも限界があります。
断熱不動産と非断熱不動産、窓との付き合い方は同じ
冬は日差しを取り込み、夏は日差しを遮るという、季節と窓の付き合い方、実は、断熱不動産に限らず、すべての建物に共通して生かせる技術です。
窓とのつきあい方が同じであれば、快適性の差は、外壁や屋根といった、窓以外の箇所に起因してくると考えて良いでしょう。
そこで、窓のない建物のモデルとして挙げた、断熱性能の高い魔法瓶と断熱性能の低いガラスボトルを思い出してください。断熱性能の高い建物とそうでない建物、どちらが夏、涼しく過ごせるかは、もうお分かりだと思います。
快適性は、断熱不動産>窓の小さい非断熱不動産>窓の大きな非断熱不動産
以前は、断熱不動産は窓が小さい、という誤解がはびこっていました。
しかし、実際には、しっかり断熱している建物は窓が大きい例が多くなってきています。なぜなら、断熱性能の高い窓を採用した断熱不動産においては、窓を大きくしても高い断熱性能を保てるからです。快適な室温に保たれた室内から、大開口を通して、屋外をより近くに感じることができるのは最高の贅沢です。(贅沢と言ってもエネルギーの無駄使いはしていません。)
一方、断熱性能の低い窓を採用している非断熱不動産では、値段の高い窓を小さくして、値段が安い壁の面積を広くすることで、安価に断熱性能を保とうとする傾向があります。
しかし、窓の小さな建物よりも悲惨なのは、無防備に窓の大きな非断熱不動産です。窓の大きな非断熱不動産は、時に夏は屋外よりも暑く、冬は屋外よりも寒いという、屋外よりも過酷な環境を作り出してしまうこともあるのです。(エネルギーは大量に浪費しつつも、ちっとも快適ではないという、贅沢なのか貧しいのかわからない空間になってしまいます。)
断熱は涼しさを長持ちさせる技術 温暖地でもチェックを忘れず
もちろん、健康を害するような猛暑が昼夜問わずに続く近年の夏では、無理せずエアコンを使うことも大切です。北海道のように夜間に気温が下がる地域では、エアコンの代わりに、夜間の冷たい外気を取り込んで建物を冷やすナイトパージという方法もあります。
しかし、寒冷地も温帯地域も、夏、断熱が有効であることに変わりません。エアコンであれ夜間外気であれ、取り込んだ涼しさを長持ちさせるための技術、それが、断熱だからです。
伝統的な庇、簾も、最新鋭のエアコンも、断熱性能の高い建物であればこそ、より高い効果が発揮できるのです。
不動産を選ぶ際には、付帯設備に気をとらわれがちですが、設備が効果的に稼働できる環境かどうか、外壁や窓の性能にも留意いただくと、より快適な不動産を発見できると思います。
断熱性能の低い建物でも、少しでも涼しく過ごせるよう、窓の方位や庇について、確認する事が大事です。簾やシェードがかけられるかどうかをを確認すれば、暮らしを工夫する余地が生まれます。
窓の前に物干し場がある人は、洗濯物で日射を遮るのも一石二鳥です。できることから始めて、快適な夏の暮らしを目指しましょう。
(文章 丸田絢子)
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