​夏涼しく、冬暖かい不動産を知る、探す、作る
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岩手県紫波町で超高断熱賃貸が実現できた理由

前回に引き続き、岩手県紫波町に建設された超高断熱高気密賃貸アパート「オガールネスト」に迫る「発掘断熱不動産」。

今回は、高断熱高気密賃貸アパートを事業として成立させた鍵に迫りたいと思います。


地元企業間の連携で10%の表面利回り確保。

オガールネストの開発では、土地所有企業、建設会社、事業開発会社という地元の企業3者が協力することで、初期費用を大幅に圧縮しています。

事業用地は、地元企業が保有していた遊休地を格安で借地しています。格安ではありますが今まで0だった現金収入が長期安定的に得られるようになること、また、土地が更地から賃貸住宅用地として利用されるようになると、高かった税金が大幅に軽減されるなど、土地所有者も新たなメリットを享受することができます。

アパートの建築を担当したのはCRA合同会社の代表を務める岡崎正信さんの実家、岡崎建設。

設計段階から施工者が技術協力することで高性能を維持しながらコストを削減するアイディアを盛り込み、さらにローコストの仕上げを個性として活かすデザインが取り入れられています。また、ガルバリウム鋼板張りの外壁や亜鉛メッキの外部階段、ダクトレス熱交換換気扇など、維持管理費が抑えられる素材、設備をしっかり採用しているところもポイントです。


(上)オガールネストFacebookページより


施工者前乗りの設計、フロントローディングは性能と価格のバランスを取るため効果的な方法です。一方で見積もり前に施工者を決定するため、入札方式に比べ価格競争が起きにくいというデメリットもあります。

しかし岡崎建設は岡崎さんの実家。身内パワーで良心的な協力が得られています。結果、オガールネストの建設単価は、税込み坪55万円。

岡崎さんいわく、「周辺の普通(低断熱低気密?)のアパートと変わらない工事単価」だとか。それでも、最低限の工事利益は確保したというのですから驚きです。

一方、賃料は、シェアスペース、高断熱高気密、デザインなどの付加価値分、高く設定しています。

費用を抑えながら高品質な建築を作ることでオガールネストは新築でありながら表面利回り10%を確保した事業計画を組み立てているのです。

前回調べたように、紫波郡の賃貸物件全体の空室率は、22.5%でしたので、空室率20%(5戸中1戸がが常に空室の状態)、賃料の15%の諸経費がかかると設定しても、想定実質利回りは7%を超えます。

※表面利回り=満室時年間家賃÷物件取得価格

※実質利回り=(満室時年間家賃-空室分家賃-年間諸経費)÷物件取得価格


超高断熱賃貸。普及の鍵は、事業性への貢献か。

初期費用の圧縮で手堅く収益性を確保することで、オガールネストでは、非常に有利な融資条件で資金を調達しています。

融資引受先である東北銀行は、2007年から始まったJR紫波中央駅前開発「オガールプロジェクト」でも融資を引き受けています。地域ビジネスでの返済実績を積み上げ、着実に銀行からの信用を高めていることも、融資条件に大きく影響しているようです。


(上)オガールベース(ホテル+バレーボール専用体育館)も

東北銀行が融資を行っている。左奥に見えるのは紫波町役場。


借り手に有利な融資条件は、賃貸経営を考える事業者にとって大きなモチベーションになります。

そう考えると、今後、賃貸住宅の高断熱高気密化が普及する鍵は、「建物性能が、賃貸経営にとってプラスになることでさらに有利な融資条件を引き出せるかどうか」にかかっているように思います。

そのためには、今まで不要と考えられることが多かった賃貸住宅の高断熱高気密化が、むしろ収益性と資産性向上に貢献するという実績を積み上げ、融資の一般審査基準に組み込んでいただく必要があります。

そこで次からは、賃貸物件ができてから、つまり、賃貸経営や管理において、高断熱高気密がどのように収益性向上に関与できるかを考えてみたいと思います。


高断熱高気密住宅は、経年劣化抑制による維持管理費の削減が狙える。ただし。。。

正しく施工され、かつ、正しく住みこなせれば、高断熱高気密の木造建築は(RC外断熱もそうですが)これまでの日本建築の常識を変えるほどの耐久性を発揮します。(高断熱高気密住宅の耐久性については断熱不動産のメンバーが北海道と提携して調査に関わっていますので、いずれ記事化したいと思います。)

ただし、高断熱高気密住宅での暮らしには、コツがあります。この新しい住まい方のコツがうまく伝わらないと、高い性能が活かしきれなかったり、逆に結露やカビで建物を傷めてしまったりすることがあるのです。特に換気に対する知識不足から起こるトラブルは、しばしば北海道の住宅や公営住宅で問題になってきました。


住こなしシェアと高断熱高気密暮らしの親和性。

(上)シェアルームで金融の話をする岡崎さんと森メンバー


我々がオガールネストの取材で感銘を受けたのは、北海道が苦戦している「高断熱高気密建築を正しく住みこなす」という課題を、シェアルームにおける住民間の情報共有によって解決しようとしているところでした。

これまでの日本の住まい、特に木造住宅は、いたるところから出入りする隙間風で、計画的な換気が難しく、断熱材も効かないために、暑さも寒さもコントロールが難しい建物でありました。

一方、高断熱高気密住宅は、必要以外の隙間をなくすことで不要な隙間風を抑え、そのかわり必要となる換気を機械により計画的に行えるよう、空気の流れを交通整理した建物です。

ですから、24時間換気扇(計画換気)はトイレや脱衣所の換気扇(個別換気)とは区別して、止めたり塞いだりせずに年間を通して回す(使う)ことが必要。常時使うものだからこそ時々換気扇や給排気口のフィルターを掃除する。といった新しい習慣にも慣れる必要があります。

また、適切な日射遮蔽と断熱材によって夏の涼しさもしっかり保てるようになりますから、真夏だからと言ってすぐにエアコンに頼らず、ある程度なら窓を閉めて暮らしたほうがむしろ涼しい時間も長い。つい、これまでの癖で、エアコン停止とともに窓を開けてしまうと、せっかくの涼しさが逃げてしまい、せっかくの効果を半減させてしまいます。

その他、給湯器だったり、キッチンだったり、高性能な最新設備は、住まい手によって上手く使いこなせるかどうかわからないことも少なくありませんよね。

オガールネストでは、シェアルームに集まるついでに、こういった、細かな住みこなしのコツを住民同士で共有することが始まり、「今度は住民一緒に熱交換換気扇のフィルターのメンテナンスでもしようか?」といった話も出ているそうです。

シェアルームを介したコミュニケーションがうまくいっているのも、オガールネストに周辺相場よりも2万円高い家賃の価値を見出した感度の高い住人が集まっているからこそ。質のいい住人が、みな仲良く、大切に建物を使いこなしてくれれば、オーナーさんの賃貸管理の負担は大きく軽減され、実質利回りも向上します。


北海道の中古断熱不動産から予測するオガールネストの未来。築年数が建てば建つほど、クチコミで人気が上昇?

これまで北海道で中古の断熱不動産を取材してきて、気になっている共通点があります。

それは、マーケットに出る前に買い手がついてしまうため、見つけ難いこと。

住宅であれ、マンションであれ、住民から「暖かい、快適」といったクチコミを聞いた人々が空室が出るのを狙ってウェイティングしているため、すぐに買い手が見つかってしまうのです。

断熱改修を実施した分譲マンションでは、断熱改修工事中に次々と空室が埋まって満室となった話も複数聞いています。

つまり通常のアパートが築年数が経てば需要が落ち、空室リスクが高まるのに対し、高断熱高気密物件では、クチコミが蓄積し伝播されればされるほど、需要が高まってくるのです。SNSではすでに、オガールネストの住民らしき人の、「夏の快適さに感動した」というコメントを見ることができました。


(上)高断熱仕様で建てられたオガールベースのバレーボール専用体育館。

暖かくケガをしにくいというクチコミにより評価が高まり、

国内外の代表チームが大会直前合宿を張るまでになった。


オガールネストにおいても、住民の知人友人といった限定されたコミュニティーの中で入居待ちが起こる可能性は少なくありません。

当然空室リスクは限りなく小さくなりますし、客質も保たれます。需要の高まりによっては賃料を値上げすることも可能になるかもしれません。

すでに収益物件で常套手段になった戸別の内装リノベーションと違い、断熱改修は1戸ごとの改修が想像以上に難しいものです。1戸ごとに行う内断熱改修は断熱欠損が起こりやすく、改修範囲だけではなく周辺の住戸に悪影響を及ぼすリスクも高いからです。建物全体を外部から改修する外断熱改修は管理組合に体力がある分譲マンションを中心に近年実施件数が増加していますが、多額の費用がかかります。

多くの既存賃貸物件では同レベルの性能と収益性を獲得するのは難しいため、オガールネストの希少価値は今後も保たれるのではないかと思います。

すでに、岡崎さんの知人の不動産屋さんが、オガールネストの快適性に感銘を受けて、新規アパート事業に着手しているとか。

紫波町周辺の高断熱高気密賃貸不動産の動向には、今後も注目していきたいと思います。

また、北海道ではすでに、高断熱高気密賃貸物件の建設を事業化している会社がありますので、今後、そういった会社にも取材をしていきたいと考えています。


賃貸住宅は、暮らしを育む公共財である

賃貸住宅というのは、持ち家を持たない低、中間所得層の多くの人々が、暮らしを委ねている場所です。真夏も真冬も快適で、体調を崩しにくい賃貸住宅ができれば、削減できた光熱費や医療費を、食費やレジャー、教育費に回すことができるかもしれません。

一度建てられた賃貸住宅は、その地域に長く残ります。欧州に比べ、公営住宅の比率の少ない日本においては、民間の賃貸住宅の社会的な役割は一層大きいといえます。

賃貸住宅に様々な税制優遇策があるのも、セーフティーネットとしての公的な側面があるこそです。

オガールネストも、当然のことながら、節税や将来のキャッシュフロー形成を見越して投資されたものでしょう。ただ、「節税」の権利を行使するのと同時に「地域に貢献できるものを生み出す」という義務もしっかりと果たしているのであれば、税制優遇が正しく効果を発揮してると言えます。

地方の豊かな未来は案外、「節税ついでに地域に投資して、豊かになった地域からまた利益を得る」投資家たちが出現するか否かに掛かっているのかもしれません。

断熱不動産は、「高断熱高気密の建物を作るといろいろ儲かる」が常識になって、多くの人が快適に高断熱高気密賃貸で暮らせる未来を目指したいと思います。


(取材/丸田絢子 森太郎 文/丸田絢子)

© 2018 断熱見える化チーム

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